事の始まりは、2013年夏、当店に一通のご相談がありました。
内容は、低身長の病気のために、通常のドラムセットではペダルに足が届かない、とある小学生ドラマーについて、何とか特注のペダルを製作できないかというものでした。
試しに実際の演奏の写真を見せてもらうと、この子は通っているドラム教室の先生のアイディアで、通常のペダルにウェットティッシュの容器をガムテープで固定して何とかペダルを踏んでいるという状態でした。

正直、この写真を見た時に、かなりの衝撃を受けると同時に、世の中にはこういった不便を抱えているドラマーもいるんだという事に初めて気づかされました。
同時に、もしかすると、、、当店でならば、、何とかより良い状態にできるのではないかという気持ちも芽生えました。
その根拠として、当店のリペア・製作担当の篠原の存在が欠かせません。
彼の技術は当店の宝と言っても過言ではなく、オールハンドメイドのGATEWAYオリジナルスナッピー製作や、壊れてしまったネジ山の復活修理、また、ある金属を加工して、ワンオフパーツを製作するなど、可能な限り元の状態を活かしてリペアすることを基本にしている当店の技術を支える重要なスタッフです。
むしろ、彼がいることで、アイディアさえまとまれば、技術的には可能だろうという見込みはありました。
篠原の技術によるところも手伝って、当店では、0から1を生み出す生産設備はありませんが、1であるものの形を変えることでそれに代わるものや、他のものを生み出すことができると自負しています。
ご依頼主には、二つ返事で挑戦しましょう!という訳にはいきませんでしたが、試しにアイディアをいくつか試してから正式にご返答させて頂きます。というところからこのプロジェクトがスタートしました。
とは言え、スタッフ総出で頭を捻りましたが、現実的なアイディアと言うのがなかなか出ません。。
そこで、全国の皆様にもナイスなアイディアをお持ちの方がいらっしゃるかもしれないと、思い切って当店のSNS上で事情を説明し、案を募集してみました。
すると、アレヨアレヨ。。と言う間に、これがドラマーばかりか、たくさんのミュージシャンにも拡散され、当店の投稿としては過去最高の、
数日で8000人程のアクセスを記録。以降たくさんの方々に共有されました。
そして、WEBのみならず、店頭でも多数のご提案を頂き、いよいよ、大まかに三通りの方法を具体的に検証してみよう!!という事になりました。
■案1 リモートHHスタンドのようなワイヤーアクションの応用
■案2 取り付け外し可能なアタッチメント方式
■案3 ペダルのフットボード部分のみ底上げ
案1では、このシステムを応用して近年登場してきたカホン用のペダルなどがそのまま使える可能性があるのではないかと、カホンペダルも取り寄せて検証してみました。

しかし、実際に演奏してみると、ヒットした時の感触や、ダブルのアクションなどでもう少しレスポンスが欲しいというのが正直な感想でした。
もちろん、今日のワンステージだけならこれで十分事足りるという程度のものですが、ずっと長く使っていくというのを前提とすると、少し保留にしておきたい案でした。
次の案2では、主に持ち運びを考慮したいという目論見でしたが、これは追い込んでいくと結局、案3に近い形が理想になるという事になり、最終的には案2と案3をミックスしたようなものが出来るとベストではないかというアイディアが生まれました。
ごく初期のアイディアで試作の試作を作ったときの映像がコチラです。
見た目は悪いですが、やはり踏込の感触はダイレクトに足に伝わり、コントロールもほとんど違和感のないモノ。いわゆる普通のペダルと同じアクションだと言える状態になりました。
要するに、ビーターの位置を1Fだとすると、ペダルの位置だけ2Fにする
『2階建てペダル』という構想です。
さぁ、そしてここからが生みの苦しみの始まり始まり(笑)
まずは、コレが無事に完成できたとして、持ち運びに苦労しないかどうかというのも大きな壁でした。
毎回こんなに大掛かりなものだと、対バンライブの時の転換も一苦労です。
どうしたものかと考えていると、ふと、SONORから発売されているJOJO MAYERペダル、パーフェクトバランスが目にとまります。
このペダルは、その名のとおりバランスの良いシンプルなアクションを追求したモデルで、しかも、何と持ち運びの時はペッタンコに折りたためるのです。
さらに、シングルポスト機構なので、1F部分と2F部分のアクションを連動をさせる為のカムの部分もスッキリさせられます。
という訳で、2F部分のベースとしては、このJOJOペダルを使う事にしました。
次に、実際に足を乗せるフットボードの部分。ここを底上げするのをどうしたものか。。これも色々と思案した結果、やはり折りたたむことができる、ギター用の足台が活用できないか!!という事を閃きました♪
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ギター用足置き台 |
さて、という訳で、
・持ち運びはなるべくコンパクトに。
・セッティングにかかる時間も普通のペダルと大差なく。
・部品関係で何かトラブルがあっても、概ね出先の楽器屋さんでもパーツが入手できそう。
これらの条件を満たした材料が手元に揃い、いよいよ逃げられない状況に。。(笑)
とりあえず、コツコツと試作品を組み上げていく日々が続きます。
そして、なんとなーく、可変できるプロトタイプの前身と呼べそうなものが完成しました。
ここまで来ると、作る方もだいぶ気分が乗ってきます(笑)
台座部分はギターの足台のままだと、微妙に傾斜がついてしまうので、思い切って作り直すことを決意。
YAMAHAのスタンド類に使われている、シンプルだけど丈夫な脚を組み込むことにしました。
そして、さらに改良に改良を重ねて、ようやくプロトタイプが完成!
セッティング、アクションともに構想通りの仕上がりになってきました。
まだこの時点では、強く踏み込むと若干台座が浮いてしまうなどの問題もあり、さらなる改良が必要となりましたが、ここでようやく納品の見通しが立ちます。
■プロトタイプセッティング
■プロトタイプ試奏
そして、いよいよご依頼人に試奏してもらった時の映像がコチラです
これでほぼ、残る作業の目星もついて、ついについに私たちの意地とプライドの結晶、
『2階建てトランスフォームペダル』が完成!
無事に納品することが出来ました。
後日、この子のお母さんからも順調にペダルと仲良しになっているとのご報告も頂き、店頭やSNSでアイディアを提供してくださった皆様をはじめ、私たちスタッフの苦労も報われました。
また、この数か月後には、彼が通っているドラム教室の発表会にもご招待頂き、実際に本番で彼がペダルを使ってプレイしている姿も拝見させていただきました。
毎日朝練を頑張っているという成果で、目から汗が出るほど素晴らしい演奏でした。
そして、自分専用のものというのは、やはり何かが違うのかもしれません。
小学2年生と言えど、「ここをもっとこうしてもらえると便利になるよ。」と、自分のペダルに対して、どの部分がどう機能しているのかとても理解を深めているようでした。
そこまで愛着を持ってくれていることにも楽器屋としてとても感激しました。
これにて、ペダルに関しては問題解決。
ひとまず、一件落着です!
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