■ こだわり

1.サウンドチェック

製造工程や製品の違いなどの説明は充分ありましたが、特に強くアピールされていたのが、商品のサウンドチェックです。ハンドハンマーのシンバルは当然ですが、マシンハンマーであっても全てを同じピッチ、サスティーン、音色にそろえることは不可能です。個体差のあるシンバルの中から、良し悪しを見分けるサウンドチェックは欠かすことの出来ない重要な製造工程のひとつと言えるでしょう。

サウンドチェックは一枚一枚人の手によって合計2〜3回行われています。サウンドにばらつきがでないようにサウンドチェックは全て違うテスターによる複数のテスターが検品を行います。
チェック方法は、マスターシンバルとなるものが全機種あり、マスターシンバルを基準として合否を決定します。判定基準は全く同一のピッチやサスティーンに統一するというものではなく、良いサウンドかどうかというところに基準が置かれています。
したがって、ピッチやサスティーンがマスターシンバルと同じでもリサイクル容器行きというシンバルもあります。また、サウンドだけでなく手から伝わってくるシンバルのバイブレーションの良し悪しも判定基準になっています。サウンドチェック中に時折マスターシンバルを聞き直すそうです。
もちろん、キズやへこみもNGですが状態によっては、修正が可能なものもあるそうです。。キャストシンバルの不良率は、10〜15%です。
B8シリーズはシートブロンズなので不良率は数パーセントしかないためサウンドチェックはロットごとに数枚チョイスして行われます。

また、テスターにもランクがあり、最初はシートブロンズのB8から経験を積み、キャストシンバルそしてハンドハンマータイプへと移行していきます。

実際にキャストシンバルのサウンドチェックを見学しましたが、想像以上にしっかりとチェックをしているのに驚きました。テスターは自分の判断にかなりの自信があるようすで、実際に不良となったシンバルと合格したシンバルの違いを説明してくれました。合格ラインぎりぎりの微妙と思われるシンバルは全て不合格となっている印象を受けました。チェックは厳しく行われていると私は感じました。

ダブルテスティング
シンバルのサウンドチェックは、2人の意見で合否を決定するダブルテスティング方式で行われています。合格ラインに達していない明らかに良くない商品は論外ですが、サウンドの良し悪しは主観的な要素もあるので、判定の難しいシンバルは2人の意見で決定しています。
ダブルテスティングが行われているシンバルメーカーは少ないでしょう。

バイブレーション
商品チェックは、キズやサウンドをチェックする以外にバイブレーションもチェックします。バイブレーションは自分の手でシンバルのセンターを持ち、スティックで実際にシンバルを叩いてチェックします。ほんの少し歪んでいるだけでも手に伝わってくるバイブレーションが違います。それを1枚1枚チェックしています。
テスターが想像以上に真剣にチェックをしていたことと、テスター自身がチェックに対してかなり自信を持っていることに驚きました。

B8もテスト
B8シリーズも品質チェックだけではなく、サウンドチェックも行っています。通常はロットごとに数枚チェックをしていますが、見学に訪れた時は新人のテスターということもあり、1枚1枚チェックをしていました。

マスターシンバル
全てのシリーズに、基準となるマスターシンバルがあります。テスターはマスターシンバルで常に確認をして、その特徴が出ているかどうかのチェックを行います。ピッチはドラマーの好みもあるので、マスターに合わすことはしていません。マスターシンバルは20年物もあるそうです。
シグネチャーモデルの製作にはマスターシンバルを元にオリジナルシンバルのサウンドを決定するそうです。
種類が多すぎて、全てのサウンドを覚えるのは無理なので、マスターシンバルは必要ですね。


シンバルの貯蔵庫であるVAULTです。
シンバルのテスティングも行われています。


2.ハンドハンマー

SABIANのハンドハンマーは、オールドKとして現在では非常に希少価値の高いトルコのイスタンブール工場で製造されていたK.ZILDJIANの名工、ケロペ・ジルカン氏の技術を受け継いでいます。現在、その技術は名工チャーリー・ブラウン氏が受け継ぎ、製造とハンドハンマリングの指導を行っています。
SABIANの前身でもある兄の家族が名前を受け継いだZILDJIANは、近年ハンドハンマーを止めてしまいましたが、SABIANはハンドハンマー技術の粋を集めたARTISANシリーズの製造を始めました。こんなところにもSABIANのシンバルに対するこだわりが感じられます。

新しい試みにもチャレンジする一方、シンバルの伝統でもあるハンドハンマー製法を頑なに守り続けていることはすばらしいことだと感じました。SABIANの自信作といえるARTISANシリーズは、1枚につき3200回以上、約35分かけて丹念にハンマリングされています。ハンマーを打つ前のシンバルはテンプレートよりフラットな状態ですが、ハンマーを打ってテンプレートの形状へ成形していきます。ハンマーでシンバルの表面を打つとフラットになっていきそうですが、実際は表面を打つことで周囲が隆起してくるため盛り上るそうです。
 

チャーリー・ブラウン氏を含むスタッフによる
ハンマリングのようす
(ハンマリングしているのは自慢のARTISANシリーズ)

ハンドハンマー前のシンバルとテンプレート。ハンマリングでテンプレートのアールに成形していきます。

3.ダブルレイジング

AA METAL-Xシリーズは、レイジングと高速バフによるブリリアント仕上げの工程が終了後、さらにもう一度レイジングを行うダブルレイジングという製法が採用されています。このことによりテンションがかかり、より高音が出るようになります。さらに、未加工のベルとの組み合わせにより、ボリュームが増します。軽く叩いても大きい音が出るのが特徴です。
シンバルは薄い方が割れ難いのですが、ピッチが低くなるため強く叩いてしまい割れるケースが多く、薄くてハイピッチのAA METAL-Xシリーズは、非常に耐久性に優れたシンバルです。
耐久性アップにも取り組んでいるところはうれしいですね。サウンドの向上に期待します。

4.塗装

数年前からブリリアントフィニッシュ以外のシンバルには、保護のため表面にラッカー塗装が施されています。ラッカー塗装は出来る限り薄くするため、シンナーを多く使用して塗装が行われています。見た目にはほとんど区別がつかないこだわりぶりです。


非常に薄く塗装されたAAシリーズのシンバル。