REMO/ VINTAGE A COATED VA-114


ドラムヘッドのトップメーカーREMOが、50周年を迎えたのを記念して発売された“VINTAGE A COATED”。1957年に発表されたCOATED AMBASSADORの仕様を再現したというこのヘッドの最大の特徴は、現行の00番・JP仕様の1plyフィルムに対して、2plyフィルムにコーティングが施してある点です。当時は、現在のように丈夫な1枚フィルムを作る技術がなかったため、極薄い2枚のフィルムで製造されていたようです。
このダブルプライの仕様が、一体どれぐらいの期間製造されていたのかは定かではありませんが、それ以前に主流であった本皮ヘッドに代わって、その後のドラムサウンドの全てを変える事になりました。

このVA-114が新たに加わったことで、現在14インチ用のREMO/COATED AMBASSADORは、クリアフィルムベースの114BA-00・スムースホワイトヘッドベースの114BAをあわせて、3種類がラインナップされることになりました。
どんなサウンドを狙うかによって選択の幅も広がりましたが、やはり気になるのがそれぞれの違いです。早速検証してみましょう!!
 


 フィルムの厚さ

 厚さの違い

 

ヘッドの基になるフィルムには、デュポン社のMylarというポリエステルフィルムが使われています。このフィルムは非常に丈夫で、第2次大戦中には耐熱フィルムとしても使用されていたようです。
 

厚さ ※1mil=1000分の1インチ

DIPLOMAT AMBASSADOR EMPEROR SNARE SIDE
7.5mil 10mil 7mil X2 3mil

サウンドと特徴

 VINTAGE A COATED (VA-114)


1957年にREMOが製品化した“最初の”COATED AMBASSADORを再現したのがこの“VINTAGE A”です。現在、REMOヘッドのAMBASSADORは10milという厚さの1枚フィルムが使用されていますが、このVINTAGE Aは7.5mil+3milという厚さの2枚フィルムで作られています。
ヘッドの厚み自体は他の2種類のAMBASSADORとほとんど変わりませんが、製造方法の違いはサウンドにも大きく影響しています。
 

サウンドの特徴:VA-114

OLDスネアにはもちろん、現行スネアの場合も古い時代の音色を狙う場合にピッタリのデッドなサウンドです。反応の良さは他のAMBASSADORと変わりませんが、2plyフィルムの効果で高域の倍音が目立たない事に加えて、本皮ヘッドのサウンドを基にして製作されたであろう中・低域の太い音色が特徴で す。ブラシのスウィープなどもグッと音量が増します。
また、VA-114独特のタッチは他の2種と大きく異なり、力任せの強いショットの場合はヘッドの反応が極端に悪くなってしまいます。オールラウンドに使うにはシビアなコントロールも要求されますが、こういった部分でも本皮ヘッドが主流だった時代の名残を感じさせます。
 

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サウンドファイル
※ハードショット

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サウンドファイル
※ソフトショット

 

■ OLD COATED AMBASSADOR (114BA-00)


一般的にオールドタイプと呼ばれているのがこの“00番”。海外で標準的に流通しているのがこのタイプで、現代のあらゆるプラスティックヘッドの基本です。REMOがヘッドメーカーのトップブランドとしての座を不動のものにした、超スタンダードモデルです。
日本でオールドタイプと呼ばれるようになったわけは、90年代後半頃からつい2〜3年前まで日本のみ“JP仕様”しか流通していなかった為です。
現在では、14インチのみ正規輸入品としてカタログにも掲載されています。
 

サウンドの特徴:114BA-00

高域から低域までレンジが広く、演奏スタイルを選ばない非常にバランスの良いサウンドです。傾向は“JP”とよく似ていますが、ベースフィルムの違いが顕著で、タッチが柔らかく、ハイテンションにしても太い音色でリッチな倍音が得やすく“JP”ほど強い跳ね返りはありません。

 

 

■ COATED AMBASSADOR (114BA-JP)


品番の末尾に“JP”という文字が入り、日本向けとされているのが、このスムースホワイトヘッドをベースにした114BAです。同じく、90年代後半からつい数年前まで、日本国内ではCOATED AMBASSADORと言えばこのタイプでした。もちろん日本のみの特別仕様ではなく、本国ではSMOOTH WHITE COATEDというラインナップで販売されています。
 

サウンドの特徴:114BA-JP

アタックが強く、高域の響きが目立つ硬めのサウンドで、ローピッチでも粒立ちが得やすいのが特徴です。反面、SMOOTH WHITEヘッドらしい硬めのタッチが顕著で、厚いシェルのスネアやピッコロスネアなど、低音のサスティーンが得にくい楽器の場合は、テンションが強すぎると音の詰まりが出やすく“ポコッ”というアタックになってきます。
 

 コネタ

■ レモヘッド誕生秘話
  REMOというブランドができたからこそ、ドラムヘッドは本皮製からプラスティック製へと移行することになったわけですが、なぜこんなアイディアが浮かんだのでしょう?
レモ氏の来日時の講演によると、こんな偶然が重なった結果がREMOヘッドが生まれるキッカケになったのだそうですよ。

REMOヘッド創始者のレモ氏は、もともとドラムショップを経営していたそうです。ある日マックス・ローチとバディ・リッチ(ドラマー界のLEGENDです!知らない人は今すぐチェック!)が偶然お店で一緒になりました。レモ氏を含め3人で立ち話が始まりました。
「ヘッドって破けてしまうよねー。」
「まったくだよ。」
「何とかならないのかな。」
と、当時主流だった本皮ヘッドに対していろいろ話をしたそうです。ちょうどその頃、レモ氏のお店は壁の修理をしていて、いろいろな工事用品が転がっていました。その中のひとつにプラスティックペーパーがありました。「あれ!これってドラムに張ったら意外といい(音がする)んじゃない?」そんな話が持ちあがり、よしやってみようと即席でプラスティックペーパーからヘッドを作ってみることになったそうです。
壁の工事用品のプラスティックペーパーをタイコの大きさに合わせてカットし、枠を取り付けてスネアドラムに張りました。※1

スティックを持って実際叩いてみると、、、
「スゴイいい音!!」

事実、驚きを隠せなかったようです。予想以上に音が良かった上、プラスティック製なので当初の問題点であった耐久性は抜群です。本皮ヘッドに変わる全く新しいヘッド誕生の瞬間です。この世で最初のプラスティックヘッドは『クリアヘッド』でした。
そのクリアヘッドの誕生以降、サスティーン等を調整する為にいろいろ試行錯誤が重ねられました。(この時期に、ベースフィルムとしてデュポン社のMylarフィルムに行き着いたのでしょう。)

そして、プラスティックペーパーを小さく丸く切ってヘッドに張り付けたものが『CS』。ペーパーを二枚重ねにして作ったヘッドが『EMPEROR※2』。なかでもユニークなものはクリアヘッドの上に接着剤を塗って砂をふりかけたものが『COATED』になったのだそうです。プラスティックヘッドを作ってからというもの注文が殺到したため、急遽ヘッド専門の工場を建てたといいます。

プラスティックフィルムをドラムヘッドとして利用するという発想の背景にはこんなエピソードがあったんですね。

※1:本皮ヘッドが主流だったこの時代、ドラマーは買ってきた本皮のシートを自分で木枠に巻きつけて使うというのが当たり前だったそうです。当然ながら、ドラムショップを経営していたレモ氏も、こんなことは朝飯前だったはずです。
※2:EMPERORヘッドも、VINTAGE Aと同じく2枚フィルムでつくられていますが、ベースフィルムの厚みが大きく異なります。